2021.3 春の市民公開講座 テーマ 眠りの不思議
2019.9 秋の市民公開講座 テーマ ストップ ザ 不眠 -不眠症を克服する―
2018.9 「すいみんの日」制定7周年記念 市民公開講座2018東京 テーマ 不眠とうまく付き合おう
2017.9 秋の市民公開講座 テーマ 睡眠はこころとからだのハーモニー
2016.9 秋の市民公開講座 テーマ さよなら不眠症~不眠症治療の最前線~
2015.9 秋の市民公開講座 テーマ 認知症にならないための快眠術
2015.3 春の市民公開講座 テーマ ここち良い眠り、困った眠り
2014.9 秋の市民公開講座 テーマ 睡眠は健康のパートナー~睡眠障害の予防と治療~
2014.3 春の市民公開講座 テーマ 子どもの睡眠の問題 ~ねる子は伸びる~
2013.9 秋の市民公開講座 テーマ 高齢者の睡眠障害
2013.3 春の市民公開講座 テーマ 女性講師による女性のための睡眠講座
2012.9 秋の市民公開講座 テーマ 健康と眠り
2012.3 春の市民公開講座 テーマ よい眠り わるい眠り
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今回は高齢者の睡眠障害をテーマとして取り上げました。 超高齢化の時代、睡眠障害の問題は見過ごすことができません。 年をとることにより、睡眠の質が悪くなります。寝付きにくく、中途で目が覚めてしまい、朝早く目覚めてその後眠れない、といった問題が起きやすくなります。これは脳の老化とともに、昼間の仕事がすくなくなるために、頭や体を使わなくなるというライフスタイルの変化も関係します。また、睡眠時無呼吸症、ムズムズ脚、レム睡眠行動障害といった高齢化とともに増える睡眠障害の問題もあります。
そこで今回はこれらの問題についてもっとも詳しい専門家をお呼びして講演をお願いします。 皆さんが年はとっても、よく眠り、毎日を楽しく、充実して過ごしていただくために、この講座がお役にたてることを願っています。
三島 和夫( 国立精神・神経医療研究センター部長 )
睡眠は決して「脳全体が一様に休んでいる状態」ではありません。眠っている間にも脳活動はさまざまに変化します。睡眠には、夢を見るレム睡眠と大脳を休ませるノンレム睡眠があります。ノンレム睡眠はその深さによって4段階に分類されます。睡眠は深いノンレム睡眠(段階3と4)から始まり、朝方に向けて徐々に浅いノンレム睡眠(段階1と2)が増えてゆきます。その間に約90分周期でレム睡眠が繰り返し出現します。
深いノンレム睡眠は大脳皮質の発達した高等生物で多く出現します。コンピューターに冷却ファンが必要なように昼間に酷使した大脳皮質を睡眠前半で集中的に冷却します。レム睡眠では全身の筋肉が弛緩し、エネルギーを節約して身体を休める睡眠といえます。レム睡眠時の脳波活動は比較的活発で、夢のほか血圧や脈拍が活発に変動することから、心身ともに覚醒への準備状態を整える睡眠と考えられています。睡眠障害ではこれらの睡眠の機能が障害され、その結果として夜間や日中にさまざまな心身の不調が出現します。
睡眠はすべての動物でみられますが、睡眠の長さはさまざまです。一般的にコウモリやネズミなど運動量が多く(ちょこまか動く)体重あたりの消費カロリー数が大きい動物ほど睡眠時間が長い傾向があります。すなわち、睡眠は十分に活動した後に休養や疲労回復のために生じる生体現象であると言えます。人は加齢とともに日中の活動量や体重あたりの消費カロリーが減少します。睡眠時間、特に深い睡眠が年齢とともに減るのはある意味理にかなったことなのです。
睡眠時間には大きな個人差があります。日本人の睡眠時間は平均7時間半ほどですが、3時間ほどの短い睡眠でも日常生活に支障がない人もいれば、10時間以上眠らないと寝足りない人までさまざまです。すなわちすべての人にとって当てはまる「適正な睡眠時間」はありません。「若い頃はもっと眠れた」と嘆く人がいますが、同じ人でも年代ごとに必要な睡眠時間は減少するため、健康な人でも中年期以降は中途覚醒や早朝覚醒がみられるようになります。したがって、若い頃の睡眠と比較することは意味がなく、眠りに関する不安が高まるばかりです。「睡眠時間の長短や夜中の目覚めの有無にこだわる必要は無く、日中の眠気や倦怠感などがなければその人にとって睡眠時間は適正だと考えるべきです。 高齢者にとって健康的な睡眠とはどのようなものか、そのためには私たちは日常生活で何を心がけるべきかご紹介します。
伊藤 洋( 東京慈恵会医科大学精神科教授 )
我が国をはじめとする先進諸国においては不眠症などの睡眠障害の発生頻度が極めて高い事が知られており、我が国においても5人に1人は何らかの睡眠に関する問題を持っているとされています。特に高齢者においては、睡眠の加齢変化としての1)入眠潜時の延長と中途覚醒の増加、2)睡眠効率の低下、3)深睡眠の減少等の要因に加え、高齢者のおかれた特有の社会状況に伴う心理•社会的ストレス要因により不眠症の出現頻度は若年者の約1.5倍に達するとされているのです。不眠症は患者さんの自覚的な苦痛だけでなく、転倒などの事故のリスクを高め、糖尿病や高血圧症に対しても悪影響を与え、QOLを著しく損なうある意味では危険な病態と言えます。
不眠症の治療に際しては、睡眠薬投与による薬物療法に先立って、睡眠薬を使用しない非薬物療法を行うべきです。高齢の不眠症患者さんの多くに認められる長すぎる床上時間や日中の仮眠などの睡眠に悪影響を与える誤った生活習慣を見直し、日中の活動性を高め、睡眠に関する正しい知識を身につける事がまず重要になるのです。
こうした非薬物療法によっても不眠症状が改善しない場合に初めて薬物療法が考慮される事になります。現在用いられている睡眠薬はベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン(N-BZ)系睡眠薬、メラトニンアゴニストに分類されますが前2者はいずれも同じ受容体に作用して効果を発現する事から一括してベンゾジアゼピン受容体作動薬と呼ばれる事もあります。BZ,N-BZ系睡眠薬はその血中半減期により超短時間作用型(〜6時間)、短時間作用型(6〜12時間)、中間型(12〜24時間)、長時間作用型睡眠薬(24時間〜)に分類されています。
高齢者では肝臓、腎臓などの諸臓器の機能低下、血中アルブミンの低値、受容体の感受性の増大などの要因から薬物の血中濃度が高まる傾向にあり、またその半減期も延長する傾向にある事から、まず半減期の短い薬物を選択し、投与量も若年者の1∕3〜1∕2量から開始するのが原則となります。また高齢者で最も注意すべき転倒→骨折→寝たきりといた重大な事故を防ぐ意味からも筋弛緩作用の少ないN-BZ系睡眠薬やメラトニンアゴニストの使用が望ましいと考えられています。。不眠症は種々の内科•精神科疾患に伴っても出現する事から、不眠症の原因に関する十分な検討が重要である事は言うまでもありません。また睡眠衛生に関する指導などの非薬物療法は薬物療法の効果を高める事も知っておくべきと言えます。
内山 眞( 日本大学医学部精神医科学系教授 )
寝ぼけとは、一般的に目が覚めてもぼんやりしている状態を言うが、医学的には、眠りからはっきり覚めないままの状態で起きだしておかしな行動をとることをさす。睡眠障害の分類上では、睡眠に伴って起こる異常現象、つまり睡眠時随伴症というグループに属する。寝ぼけを示す睡眠時随伴症にはいくつかあり、年齢によって起こり方や起こる仕組みが異なっている。
50歳以降に始まる寝ぼけは、レム睡眠行動障害が多い。200人〜300人に1人くらいの頻度で見られ、女性に比べて男性で多い。すやすやと眠っている途中に、突然大声で話し、叫んだり、上肢を激しく振り出したり、下肢で蹴飛ばす動きなどがみられる。ひどくなると、立ち上がったり、歩いたりする。20分くらい続き、レム睡眠が終わると寝ぼけ行動はおさまり、静かな睡眠に戻る。レム睡眠に一致して、一晩に何回かこうしたエピソードが見られる。
こうした行動はレム睡眠中に限って起こり、寝ぼけた人がその時見ていた夢内容と周りの人によって観察された行動内容が一致している。つまり、寝ぼけ行動は、レム睡眠中の夢見体験がそのまま行動になって現れた現象と理解できる。夢内容は、人や動物に追いかけられる、悪人を捕まえる、家族や子供を救い出すなどの危急の事態に関する悪夢が多い。寝ぼけ行動中は、夢を見ているため、周りの状況は見えていない。転倒や骨折の危険性が高いのはこのためだ。
レム睡眠行動障害では、行動中であっても、大声で呼びかけ、体を揺するなどすると速やかに完全に目覚める。これはレム睡眠中に見ている体験に伴って起こる行動であるため、夢から覚めると行動も止む。目覚めさせようと正面から近づくと、寝ぼけ行動による手の動きあたってしまうので、側面から肩をしっかり抱えて揺するのが良い。認知症や身体疾患などで見られる、せん妄においても、夜間に異常行動が出現するが、レム睡眠行動障害と異なって、目を覚まそうと思っても目が覚めない。
本来レム睡眠中は、クラッチが切れたようになっているため、いくら激しい夢を見ても、脳からの運動指令が筋肉まで伝わらなくなっている。レム睡眠行動障害では、このクラッチの切れが悪くなることで夢体験が行動となって現れてしまう。
レム睡眠行動障害は、パーキンソン病やレビ−小体型認知症の初期症状として出現する場合もあり、そのことを心配される方も多い。ただし、およそ3分の2は、その他の病気には発展せず、そのまま経過する。転倒やそれによる外傷が一番の懸念となるため、受診して治療を受けることが重要である。クロナゼパムというベンゾジアゼピン系の薬剤をはじめとして、いくつか効果的な薬剤が有り、投与によりねぼけ行動だけでなく、自覚的な悪夢も改善する。
粥川 裕平( 岡田クリニック 特別嘱託医)
世界有数の長寿国日本の高齢者は果たして幸せであろうか。加齢に伴って、身体的機能低下が生じ、いろいろな身体疾患が生じる。一般的問題として、収入減、親族の喪失、地域共同体の喪失、社会的孤立に加えて知覚障害(視覚および聴覚)、歩行障害、転倒しやすさなどがある。高齢者のうつ病発症の前駆要因には、知人・家族との諍い、拒絶あるいは見捨てられ、最愛の人の死あるいは重篤な病、ペットロス、回忌などがある。
在宅あるいは養護施設入所高齢者の15% がうつ病、高齢者のおよそ50%が精神科施設に入所という統計データがある。寡婦、慢性身体疾患はうつ病の危険因子であり、意欲減退、睡眠障害、疼痛、筋力低下、胃腸障害などの身体的訴えが高齢者のうつ病ではより多くなり、プライマリケア医にかかる頻度が増え、自殺の危険性が増大する。高齢者のうつ病は迫害妄想、心気妄想を本来的に伴いやすいため、抗うつ薬と抗精神病薬の両方を必要とする。
仮性認知症は高齢者のうつ病の 15% に出現し、認知症の 25 ~ 50% は抑うつ的になる。しかし症候論的には気分の低下・抑うつ気分は必ずしも見られず、楽しく出来ていた活動への持続的な喜びや関心の欠如は多く見られる。また悲哀が少なく身体的訴えが多いという特徴がある。
高齢者のうつ病には生物学的要因、社会的要因、心理学的要因の3つの成因を検討しなくてはいけない。 第一の生物学的要因では、遺伝学的要因、即ち、第一度親族での高い有病率、一卵性双生児の高い一致率、セロトニントランスポーター遺伝子異常、身体疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、癌、糖尿病、脳卒中、脳の血管性変化、慢性疼痛、うつ病の既往、物質乱用を考慮しなくてはいけない。ちなみに、脳卒中、癌、心筋梗塞、リュウマチ、パーキンソン病、糖尿病でのうつ病発症率は頻度が高く、困ったことにうつ病を合併する身体疾患は予後が悪い。第二の社会的要因では、孤立、孤独、最近の死別、 社会的支援の欠如などがある。第三の心理学的要因では、外傷体験、虐待、身体像へのダメージ、死の恐怖などがあげられる。
5. 高齢者のうつ病の睡眠の特徴
高齢者のうつ病の睡眠では、熟睡感の欠如、早朝覚醒が、睡眠ポリグラフ検査では、徐波睡眠の欠如、浅睡眠と中途覚醒の増加が特徴的である。日中眠くない不眠が一般的だが、周期性四肢運動、睡眠時無呼吸の合併などもあるので、睡眠病理も複雑化し治療は難渋する。一般に睡眠相前進が見られるが、早朝覚醒が苦痛となったら自殺に要注意である。
宮崎 総一郎( 滋賀医科大学睡眠学講座 特任教授)
何時間眠ればよいの?
私たちは何時間眠るのがベストなのでしょうか?答えは、「睡眠時間は人それぞれ。朝起きたときに疲れがなく、昼間に普通に活動できていれば、あなたの睡眠は足りている」とお考えください。 水木しげるさんは、90歳ですが、人生哲学は「睡眠至上主義」。「好きなだけ眠らずして何が幸福か、仕事が多くて眠れないときは、仕事を減らしたと」のことです。対照的に、聖路加病院の日野原重明先生は、101歳ですが、診療・講演とエネルギッシュです。睡眠時間は平均5時間弱とのことです。睡眠時間やリズムは人それぞれです。自分の睡眠特性を知って、社会に適応し、楽しく生活することが大切です。
テレビや携帯で不眠になることも
テレビを夜遅くまで見ていると眠れなくなり、途中で目の覚める原因になります。Aさん(65歳、男)が、「寝つきが悪くいつも30分以上かかります。夜中何度も起きてトイレに行きます。ぐっすり寝た気がしなくて、昼間も眠いです」と相談に来られました。寝る前には、寝室でテレビを眠くなるまで見ているとのこと。そこで、9時以降は寝室を暗めにして、テレビを止めてラジオを聴くようにしてくださいとお願いしました。1か月後、とても元気な表情で現れました。「寝ながらテレビを止めたところ、寝つきがとてもよくなりました。このごろは15分くらいで眠れます。トイレにも一度も行きません。途中で起きないので、朝に熟睡感もあります。昼間も眠くなくなりました。今までは、各部屋にテレビを3台置いていたのですが、すべて片付けました。実は私はテレビを売っているのですが、睡眠にとってテレビはよくないことを実感しました。 ハハハ・・」。
テレビや携帯、パソコンは今や私たちの暮らしと切り離せません。しかし夜に画面に集中すると脳が興奮して眠気がなくなります。では、いつテレビや携帯を見ればよいのでしょうか。それは朝です。朝は、脳に刺激与える覚醒につながります。夜に脳によくないことは、朝には脳を目覚めさせるのに有効です。
眠りと嗜好品
眠れないときには寝酒をたしなんでいる人が多いのがわが国の現状です。アルコールには、中枢神経抑制作用があり、鎮静・催眠作用をもたらします。このような作用を利用して、睡眠薬代わりに寝酒をたしなんでいる人が多いのです。 D夫さん(60歳)は、寝酒を常としていました。たまに寝酒しないと寝つきが悪いので、毎晩飲んでいました。いびきがひどいとのことで、あるとき病院の睡眠外来を訪ねました。そこで先生から、酒はいびきを悪くするので、飲まないように指導されました。飲まないとなかなか眠れません。何として眠ろうかとストレスでしたが、それでも頑張って飲まないで眠ると、翌朝頭がすっきりしているのに気づきました。寝つきが少々悪くても、酒を飲まない方が、睡眠の質がよかったのです。
適量のアルコールは入眠を早め、深い睡眠を増加させます。しかし、代謝と排泄が早いため、睡眠後半には、眠りが浅くなり中途覚醒が増えます。さらに、交感神経活動が亢進して、脈が速くなり、汗をかいたりします。寝つきがどうしても悪いときには、お酒ではなく、睡眠薬をお勧めします。昔の睡眠薬は副作用が問題でしたが、今の睡眠薬はその点が改善されて安全に服用できます。
最近のわが国の睡眠の実態について調べたさまざまな調査から、「眠りたいのに睡眠時間がとれない人」と「眠ろうとして床に就いても眠れない人」が増加していることがわかっています。男女別、年齢別に睡眠時間を調べた調査によると、どの年齢層でも女性の方が少ない傾向にあります。
これは、女性の方が身支度に時間がかかること、パートナーである男性の家事・育児・介護参加が少なく、女性の負担が大きいことが要因と考えられます。最も睡眠時間が少ないのは40歳代女性です。6時間の睡眠を確保できない女性が40歳代では40%もいるという調査報告もあります。自分自身が仕事を持っている上に、自分以外の家族の用事にも手をとられ、睡眠時間を削って目いっぱいがんばっている姿が目に浮かびます。
1日24時間という限られた時間のスケジュールを組む際、仕事や遊びを優先し、通勤(通学)時間、食事時間、と埋めていくと、最後に残るのは睡眠時間という方が多いのではないでしょうか。日常生活で最初に削られてしまう睡眠時間ですが、睡眠は私たちの健康維持に大切な役割を果たしています。睡眠の状態は、大きくレム睡眠とノンレム睡眠の2つのタイプに分かれます。
レム睡眠時は、大脳は活発に働いて夢を見ていることが多いのですが、体は休んだ状態です。ノンレム睡眠時は大脳が休んだ状態です。大脳は、見る・聞く・感じるといった知覚情報を処理する、考える、文字を書く、会話する、などの高度な働きをしているため、24時間365日、連続運転していてはオーバーワークです。そこで、大脳を休ませるために鳥類や哺乳類は眠るようになったと言われています。つまり、睡眠には「からだを休める」という働きと「大脳を休息させる」という2つの働きがあるのです。また、夜の睡眠中、子どもの骨や筋肉の成長に欠かせない成長ホルモンが大量に分泌されます。
子どもほど多くはありませんが、大人も夜の睡眠中に分泌され、免疫機能・代謝機能の増強、身体の疲労回復に役立っています。眠り方の基本は「昼はしっかりと起きて活動し、夜もしっかりと眠る」ということです。 本日は、女性を中心にした日本人の睡眠の実態や、どうしてヒトは眠らないといけないのか、その必要性などについてお話ししたいと思います。
1 女性の睡眠の特徴
近年の24時間型社会の浸透は多くの日本人の睡眠の剥奪をまねいていますが、なかでも女性における睡眠時間の不足は欧米に比べて際立っています。NHKの5年ごとに行われる国民生活時間調査をみると、40歳から60歳代の女性では男性に比べて睡眠時間が少なくなっていることがわかります。
2010年の調査では、40代の女性の睡眠時間が最も短くなっていました。また、女性は性ホルモンとともに睡眠が変化することも知られています。加齢に加えて、性ホルモンの変化など、ライフサイクルから睡眠の問題をとらえる必要があります。そこで、健康な女性では、月経周期とともにどのように眠りが変化するのか、また、眠りの男女差についても概観したいと思います。
2 睡眠障害
不眠は加齢とともに増加してきますが、そのなかで女性に特有な睡眠障害とし更年期症状による不眠があります。火照りや発汗に伴い夜間に頻回に覚醒するもので、更年期の定義としては閉経の前後5年間をさします。
その他にむずむず脚症候群による不眠があります。日本での有病率は1ー4%といわれ、女性で多く認められています。夕方から夜にかけて脚の違和感のためにじっとしていることができなくなりますが、特に夜間床に入るとその違和感が強まり、入眠が妨げられます。
不眠で外来受診される方のなかには、よくお話をきくとじつは不眠症ではなくこの疾患であることがあります。妊婦での報告も多く、妊娠に伴い鉄分や血清フェリチンが低下し、二次性に発症するのではないかと考えられています。多くは出産とともに症状は軽減します。 また、心理社会的要因による不眠もあります。育児に伴う場合や配偶者による影響、親の介護など各年代によって睡眠の妨げられ方が異なりますが、不眠の重要な要因です。 ついで日中の眠気を伴う疾患として、睡眠時無呼吸症候群(SAS)があげられます。この疾患は男性に多いと考えられていますが、最近は女性においても注目されるようになってきました。
閉経後にいびき、あるいは日中の居眠りの形で発症することがあります。欧米の疫学調査ではいびきと日中の眠気の関連が指摘され、呼吸障害とは別にいびきは中高年者の日中の眠気と関連する、あるいは男性よりも眠気を訴える割合が高いとされています。女性では不眠のために睡眠薬を服用することが多くSASが顕在化することがありますので注意が必要です。
一方、女性ではほとんど認められない疾患もあります。レム睡眠行動障害といって、60代以降の男性に多いのですが、夜中に大声を上げたり、腕を振り回したり走り出してしまうもので、夢の内容と一致した行動をしてしまう睡眠障害です。時に隣にいる妻を泥棒だと勘違いして殴ってしまう方もいます。女性に少ない理由は明らかではありません。
3 快適睡眠の確保
ここでは、更年期女性にみられる睡眠障害の改善策として検討した光療法についてご紹介し、光環境の整備が重要であることを強調したいと思います。
(東京医科大学睡眠学講座 准教授)
みなさまの眠りは、ご満足のいくものでしょうか。
近年、「睡眠」や「眠気」に関して、テレビ番組や新聞、雑誌、ウェブサイトで特集が組まれ、さまざまな情報や雑学があふれています。このことは、眠りの重要性が認識され、日常生活で「睡眠学」の知識が必要とされていることを示していると思います。一方で、満足な眠りをなかなか得られない現代人の状況を表しているとも言えそうです。
子どもの頃は自然に眠くなり、ぐっすりと眠り、昼間は元気に遊んでいました。いつの頃からか悩み事で寝つけない夜が増えたり、朝起きても熟睡できていたかわからないような気持ちになったり、昼間も何となく調子が悪い、眠いといった不満が出てくるようになりました。 「若い頃のように、ぐっすりたっぷりと眠りたい」、「眠りは、体にとって大切な休息だから8時間以上、睡眠を確保したい」、あるいは「眠っている間は何もしていない状態だから、人生で無駄な時間だ。できるだけ睡眠時間を短くして活動したい」というのは、理にかなった考え方でしょうか。
眠りというのは、生命を維持していくためになくてはならない時間です。ですので、自分の意思で自由に睡眠をコントロールすることはできません。私たちは、不十分な睡眠で活動し続けることは不可能ですし、反対に、無理に眠ろうとしても眠れるわけではありません。眠りは、体内時計や睡眠中枢のメカニズムに従って、睡眠の質や量、タイミングが決定されているためです。
眠るためにお薬を飲んでいらっしゃる方も少なくないと思います。 「睡眠薬に任せて眠ればいいわ」とお薬に頼りきってしまうことも、「睡眠薬は一度飲んでしまうと、やめられなくなりそうだから絶対服用したくない」と眠りに不満を抱えたままで過ごすことも、どちらも適切な考え方ではありません。 今日は、薬に頼らないで、睡眠を改善するためのコツをお伝えします。眠りをよくするために日常生活の中で取り組めることがいくつかあります。
お話することのポイントは、 (1)からだのリズムを整えましょう、(2)昼間の活動を見直してみませんか、(3)眠る前はリラックスしましょう、(4)眠りの環境を整えましょう、です。ぜひ一つでも、生活の中に取り入れて、習慣にして下さい。皆さまの眠りがご満足いくものになるはずです。
2000年初頭にアメリカから日本に入ってきた性差医学の概念は、初めて、「性差」という言葉が、生物学的性(セックス)と社会的・文化的性(ジェンダー)の両者に関係することを示しました。これによって、疾患の罹患率や症状における性差には、セックス依存性のものとジェンダー依存性のものがあることが認識されるようになりました。 たとえば、セックス依存性の疾患には、生殖器系の疾患を除き、身体のつくりや性ホルモンの違いに関係するものが挙げられます。とくに女性での閉経によるエストロジェン欠乏を原因とする関節疾患/リウマチ、骨折・転倒、認知症が重要です。
ジェンダー依存性の疾患は男性が社会を、女性が家庭を、という性別役割意識に支配される社会/文化と深く関わっています。日本人の三大死因、がん、心臓病、脳卒中は全て男性のほうが罹りやすく、死にやすい、つまり過酷な社会生活と関係しているジェンダー依存性の疾患であることが注目されます。ただし、これらの疾患への罹患率の性差には閉経前の女性はエストロジェンのよって護られているという因子があることは見逃せません。女性のセックス依存性の疾患は不健康寿命を導くとは言え、男性のジェンダー依存性の疾患のため、日本人の平均寿命の性差は現在7年にもなっています。
平均寿命の男女差は男女共同参画が進んだ北欧社会では約4年です。この北欧での寿命の性差の短縮は、とくに男性の思考/行動を支配する脳に変化がもたらされた結果と私は考えています。 したがって、男女共同参画社会形成が必要と私が考える理由は脳の性差の解消があります。疾患だけではなく、脳の構造と機能にも性差があり、私はこの性差にもセックスとジェンダーというという特徴があることを主張してきました。簡単に言いますと、セックスは本能/情動の調節、体温調節、生殖機能の調節などの調節、そして睡眠-覚醒の調節を行なう「古い脳」、ジェンダーは認知機能、思考と意志の形成、行動発現、本能/情動行動の調節に当たる「新しい脳」にあります。
古い脳のセックスは出生前に生得的に形成されますが、新しい脳は出生後に環境刺激に対応して形成されます。現在の日本人の新しい脳には性差がありますが、この性差は性別役割意識を基盤とする社会/文化によって形成されるジェンダーであると言えます。家庭や社会での私たちの思考/行動はこのジェンダーの表出であり、したがって、先の男性のジェンダー依存性疾患もその帰結と言えます。
新しい脳の性差は社会/文化に性別役割意識がなくなり、男女共同参画社会となれば消失するはずで、北欧では、思考/行動だけでなく、数学能力という知的能力の性差も消失しています。 男女共同参画社会形成には、女性の社会への参加の促進は勿論のこと、男性の家庭への参加の促進も必要です。女性の側から見れば、これによってのみ女性の健康の維持が計られるでしょう。
テーマである睡眠の質と量にも改善があることが期待されます。私は更年期の女性を対象にクリニックを経営していますが、入眠障害の多さ、睡眠時間の少なさには大変驚いています。一方で、男性が育児などに時間を割くことが寿命の延長につながることは、先に述べた北欧の実態だけでなく、サルなどの研究で知られています。これがうまくいかないと、女性が社会に進出することにより、女性の死因にこれまで男性に多かった疾患が増えてくる、それによって女性の寿命の短縮がある可能性があります。
睡眠の障害や不足の状態が長く続くと、高血圧や心筋梗塞などのリスクの上昇や免疫機能の低下が生じ、肥満やII型糖尿病の発症リスクも高くなります。また、注意が散漫となり事故を起こす危険性も高くなります。意欲や学習機能の低下、自己評価の悪化、ストレスの蓄積、認知機能の低下、気分の悪化なども知られています。
これは、睡眠が脳(こころ)と身体の健康の維持や病気の予防と密接に関係しているからです。健康な眠りは、百薬にも勝って、人間の生命を維持する重要な役割を果たしています。健康な眠りには、量も質も大切なのです。健康に最もよい睡眠時間は、大多数の人で7時間前後です。それも夜に集中していた方がよいようです。
睡眠は、体のリズム(生体時計)ともリンクしていて、昼行性の動物である人間は、夜に眠るよう遺伝的にプログラムされているからです。スムーズに寝つき、眠った後はほとんど目覚めず、さわやかに目覚め、リフレッシュ感がある、このような睡眠が良質な睡眠です。食を含む規則的な睡眠・生活習慣、日中の活動的な生活、適度な運動、寝室や寝具などの睡眠環境への配慮などが、健康な眠りへの条件です。
自分の睡眠に満足していない方は、前記のような極めて常識的な事項への配慮が不足している場合が多いのです。一日は就寝から始まると考えてください。健康な眠りは、翌日の生活を楽しく充実したものにする働きがあるからです。
7,500人の睡眠障害患者さんの診察経験から生まれた最新の不眠症治療を公開します。不眠症には、実際に睡眠の質の悪いタイプの不眠症と、眠ってしまえば睡眠の質は良いが、不眠恐怖で寝付けないタイプがあります。
不眠恐怖不眠症患者さんに、「何時に眠りましたか」、「目をつぶってから何分で眠れましたか」と診察の度に質問します。すると患者さんは、不眠を強く意識するようになり、最終的には寝室に行くことを意識するだけで目が醒めてしまいます。その時に役に立つのが睡眠計です。
私は、高性能の万歩計のような睡眠計を使っていますが、腰に着けるだけで自動的に睡眠状態を記録してくれます。不眠症患者さんが来院した際には、患者さんと一緒に睡眠計を見ながら、「昨晩は6分で寝付いているね」、「4時間くらい眠っているから今日は大丈夫」と説明し安堵感を与えます。
不眠に関しては極力話題にしないようにします。最近では、腕時計やスマートフォンに睡眠計がついているものや、目覚まし時計に睡眠計ついているもの、寝具の下に敷く睡眠計などがあります。最新の睡眠外来では、睡眠計を使った不眠症治療がトレンドになっています。
地球上のほとんどの生物は体内時計を持ち、約24時間のリズム(概日リズム)を作り出しています。体内時計によって地球の自転に伴う24時間の環境変化を予測して、時間帯ごとに身体の状態や行動の準備をしています。
睡眠と覚醒は、体内時計が作り出す概日リズムと睡眠不足の程度によって影響を受けています。睡眠覚醒リズムと必要とされる生活スケジュールが一致しなくなると、目覚めていなければならない時間帯に目覚めることができず、眠らなければならない時間帯に眠れなくなるなどの問題が生じます。
しかし、睡眠覚醒リズムの問題は体内時計だけでなく、様々な原因によって起こります。これらの原因と対処法について、また「規則正しい生活」について言われていることのうち、どこまでが科学的裏付けがあるのかについても解説します。
歯科医院で、いびきや睡眠時無呼吸の治療ができることをご存知ですか?睡眠時無呼吸の治療法としては、医科医院では、まずCPAP(シーパップ)治療を行います。シーパップ治療とは、睡眠中に鼻マスクをつけて、そこに器械から空気を送って気道を広げるものです。この治療法は、器械が使える人には効きますが、大掛かりになってしまいます。
歯科での治療法は、マウスピースを作ってはめて寝るだけです。この装置(正式には口腔内装置と呼びます。)によって下顎を前に出した位置で眠るので、のどの奥の気道が広がりいびきや無呼吸が無くなる作用があります。シーパップと比べると小さいものなので、持ち運びにも便利で旅行にも持ってゆけますし、比較的簡単に作れます。
さらに最近では、歯科医院で睡眠時無呼吸症の予防ができるのではないかと、期待されています。睡眠時無呼吸症の名付け親でもあるスタンフォード大学のギルミノ教授が、子供の矯正歯科治療により睡眠時無呼吸症が改善する可能性があることを報告しています。当日は、これらのことを中心にお話する予定ですので楽しみにしてください。
従来、 不眠症は本人の主観的な苦痛は問題ですが、患者の身体および精神機能には大きな影響は与えないと考えられてきました。しかし、その後の研究により不眠症(あるいは睡眠不足は)は糖尿病や高血圧症などの身体疾患のリスクを高めるだけでなく、うつ病の発症リスクも高めることが明らかにされています。つまり、不眠症は本人の主観的苦痛だけでなく、患者の心身にも大きな悪影響を与える、ある意味では危険な病体とも考えられます。
日本大学医学部精神医学系 教授
東京医科大学睡眠学講座 教授 睡眠総合ケアクリニック代々木 理事長
睡眠の問題は、その質や量だけに限ったものではなく、夜間睡眠時間帯に起こってくる異常現象が睡眠を妨害したり、けがの原因になったりすることがあります。 夜間の不快な感覚(むずむず、いらいら)症状は、「ムズムズ脚症候群(RLS)」と呼ばれ、安静時に悪化し、歩いていると軽快するという特徴があります。
好発年齢は中年期以降ですが、若年者でもまれではなく、重要な不眠の原因になりますし、イライラ感のために学業、仕事に集中することができなくなることがあります。また、RLSの方では眠っている最中に手足の蹴るような動きを生じることがあり(周期性四肢運動)、このために眠りが浅くなったり、昼間に眠気がおそうこともあります。寝ボケは、小児期では頻繁にみられる生理現象ですが、成人しても治らないケース、高齢層に生じる不快な夢を見ながら暴れる「レム睡眠行動障害」は、けがを生じるケースが多いため、治療が必要です。
日本大学附属板橋病院睡眠センター長
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは睡眠中にしばしば呼吸が止まってしまう特異な病気です。我々は仰向けで就寝しますが、この時舌根部が重力により沈下し、のど(咽頭部)が狭まります。さらに睡眠状態に入ると全身の筋肉が弛緩しますが、のどの筋肉も弛緩するため、のどはさらに狭くなります。
しかし、健康な人ではこの程度は呼吸に何の問題もありません。ところがSASの患者さんは何らかの理由でのどが狭くなる程度が非常に大きいのです。その狭いのどを空気が通過するときの音がイビキです。ですからSASの患者さんは100%「ひどいイビキかき」と言ってもいいでしょう。ただイビキだけでは病気ではありません。のどが狭くなるだけではなくて完全に詰まった時、その状態が10秒以上続いた時に無呼吸と呼びます。正確には1時間当たり5回以上無呼吸が起こるとSASと診断します。無呼吸が頻回に起こると酸素は少なくなり、いい睡眠もとれなくなって多くの病的な状態が起きてきます。
東京ベイ・浦安市川医療センター 管理者
ヒトは寝て食べて出してはじめて脳と身体がベストコンディションになる昼行性の動物です。ですから眠るための基本は、食、排泄、脳と身体の活動がきちんとなされることです。そこで私は眠りの基本―スリープヘルスの基本は4+αと申し上げています。
1.朝の光を浴びること
2.昼間活動すること
3.夜は暗いところで休むこと
4.規則的な食事をとること
そしておまけのαは眠りを妨げる嗜好品(カフェイン、アルコール、ニコチン)や環境(過剰なメディア接触)を避けることです。
子どもたちが「眠れない」状況に追い込まれるきっかけの多くがこのスリープヘルスからの逸脱にあると演者は感じています。そして「眠れない」は睡眠不足をもたらし、昼間から「眠い」子どもたちを作り出しているのではないでしょうか?眠れず眠い子どもたちについて考えるきっかけとなるような講演にしたいと思っています。