第6回機構長賞採択者
CNS薬理研究所 所長 村崎 光邦先生
村崎先生といえば、心の病気に使われる向精神薬の日本の最高権威者として 大変よく知られた方です。統合失調症、うつ病、てんかんなどの治療に使う薬 はもちろんのこと、多くの睡眠薬が日本で使われることを可能とした貢献は非 常に大きなものがあります。 睡眠の研究や医療に関しても、我が国のリーダーとして活躍されました。
日本睡眠学会の事務局長を9 年間、理事長を4 年間勤められ、日本の睡眠研究 を世界的なレベルにまで高め、不眠症や過眠症に悩む患者さん方に良質な医療 が届けられるように大きな力を発揮されました。 先生は現在『臨床精神薬理』という雑誌に「私の歩んだ向精神薬の開発の道」 回顧録を毎号載せて、評判を呼んでいます。2011 年から始まって、現在71 話まで来ていますが、その間に取り上げた薬は40 種以上です。
その一つ一つ の薬が誕生する影にどのような苦労があり、どのような紆余曲折があったかを 科学者として、またエッセイストとして読む人を引き込む語り口で書かれてい ます。 これをみても、先生が不眠に悩む人をはじめ、心に障害をもった人々に薬剤 を通じて光明を投げかけてきた功績の重みを感じます。このような功績に対し て機構長賞をもってささやかな感謝の気持ちを表したいと思います。
第5回機構長賞採択者
太田総合病院太田睡眠科学センター名誉所長 佐々木 三男先生
今回の機構長賞は太田総合病院太田睡眠科学センター名誉所長、佐々木三男先生に決定しました。佐々木先生は東京慈恵会医科大学を卒業した後、睡眠の先進的研究機関であった同大学精神科で研究活動を始めました。その当時は限られた人たちが海外旅行をした時代です。
しかし世界中では航空機の大型化と長距離飛行の気運が高まり、国際線航空乗務員には時差勤務による睡眠・健康障害が多くみられ、国際的共同研究が行われるようになりました。 佐々木先生のグループはアメリカ航空宇宙局(NASA)の依頼により世界中の大都市に移動し、身体のリズムや脳の活動がどのように影響されるか、到着地の生活に適応するまでにどのような変化が起こるか、など、現代のオリンピックアスリートや宇宙飛行のさきがけとなる研究を次々と発表されました。
睡眠を記録するために、外国に持参できる可搬性の睡眠計測器を作成し、それを機内やホテルに持ち込んで就業中や休息時の脳波検査を行いました。さらに血圧・脈拍測定、メラトニンの継時的検査など膨大なデータを蓄積しました。これはもう50年も前のことです。このような研究で分かったことは、生活を現地時間に合わせるのは時差により異なること、西回り飛行は東回りより楽なこと、このようなリズムあわせにも個人差があることなどです。
このような研究は現代の夜勤や超過勤務、家族との問題など私達の日常社会生活にも応用されます。これは現代サラリーマンの睡眠覚醒スケジュールと疲労感、交代勤務とストレスといったテーマで発表されました。先生は私達にどのような状況にいても睡眠と体のリズムが生命の基本現象であることを教えてくださいました。
参考書:
佐々木三男 「大脳が元気になる快眠の本」 講談社 1995年
佐々木三男 「航空機事故と睡眠不足の関係性」睡眠学 じほう 2003年
第4回機構長賞採択者
名古屋大学名誉教授 岡田 保先生
当機構では、これまでに多くの睡眠研究に貢献された先輩の先生方に、その功績をたたえて機構長賞を授与してきました。この度、第4回睡眠健康推進機構長賞は、岡田保先生に決定いたしました。岡田先生は昭和50年5月、一人のうつ病の患者さんの睡眠中に呼吸が停止することを発見しました。
西欧でも少し前から同じ病気が発見され、Sleep Apnea Syndrome(SAS)と呼ばれました。その病気の日本語を「睡眠時無呼吸症候群」として発表し、それ以来日本でもSASの研究が発展するきっかけとなりました。さらに終夜睡眠ポリグラフ検査という客観的データにより日本にもSASがかなり多いのではないかと報告しました。それまではこのような病気があることさえ知られていなかったのです。
さらに睡眠中に呼吸が止まると血液の酸素濃度が低くなることを発見し、生命に危険を及ぼすことを警告しました。 その後には、日本にどの位のSAS患者さんがいるのかという疫学的調査を初めて実施し、わが国でも少なからず存在することを実証しました。続く数年間には大掛かりな夜の睡眠検査でなくとも、指先にパルスオキシメーター(酸素濃度測定器)をつけて眠るとSAS重症度を測ることができることを発表し、今日も広く用いられています。SASの病気がなぜ起こるのかといった病態研究にMRIや赤外線分光法を用いて優れた業績をあげました。岡田先生はこれまで40年間にもわたり日本のSASの臨床研究に貢献された第一人者です。
第3回機構長賞採択者
公益財団法人 神経研究所附属 睡眠呼吸障害クリニック 高橋康郎先生
このたび第3回目睡眠健康推進機構長賞は高橋康郎先生に決定しました。 眠りについてから最初に現れる深い睡眠である徐波睡眠に一致して成長ホルモン(growth hormone, GH)の血中濃度が上昇することは良く知られています。
このGHが睡眠中に増加することは小児でも成人でも認められる現象ですが、食事をしたり、運動をしたり、急性ストレスなどによっても起こります。しかし睡眠による分泌が一日のなかでは最大になります。 この現象は高橋康郎先生が1965年にアメリカのワシントン大学に留学中に睡眠脳波を記録しながら眠りを妨げないようにして20~30分間隔で採血を行って、発見しました。この成果をメキシコで開かれた国際内分泌学会で発表した時、最初に出た質問は「睡眠中の成長ホルモン分泌にどんな作用があるのですか」というものでした。
先生はとっさに日本には古くから「寝る子は育つ」(A baby with a sound sleep grows well)という諺があると答えたそうですが、このような諺は欧米にはないようです。 GHにはタンパク合成や脂質分解、血糖上昇などの作用があり、成人でも重要な働きをしています。その後の研究では、成人や高齢者では特に深睡眠との関係は子どもほど強くはないようですが、昼間にも分泌され重要なホルモンであることがわかっています。 高橋先生はGHのみならず、ナルコレプシーと呼ばれる病気の発見と、その後治療法の研究を行いました。ナルコレプシーは昼間にも眠気が強く何度も居眠りをしたり、また寝入り端に夢をみて身体が動かせない状態になったり、急に笑ったり、興奮すると全身の力が抜ける脱力が起こる病気で、日本人に多くみられます。
また、似たような一日中眠ってばかりいるような時期が時々、周期的にみられるような過眠症と呼ばれるような病気の研究もすすめられ、現在でも多くの患者さんの治療に役立っ