この風変りな名前をご存知の方はそれほど多くないと思います。英語ではレストレスレッグス症候群と言います。すなわち、脚がムズムズしてじっとしていられず絶えず脚を動かしているという病気です。症状が軽い方はこれが病気とは思わず、疲れだろうとか血の巡りがちょっと悪いだけだろうなどと勝手に解釈している方が多いようですが、これは世界で使っている国際診断基準の中にちゃんと記載されています。この病気の方は睡眠が浅くなるために日中の眠気に悩まされることも少なくありません。時にはこの症状があるために気持ちが沈んだり、不安感が襲ってきたりといった症状に悩まされることもあります。
この病気と診断するためにアメリカの睡眠学会では次の4項目を挙げており、これが国際的な診断基準になっています。
①脚を動かさずにはいられない
②じっとしていると症状が強くなる
③動くと症状が軽くなる
④夜間に症状が強くなる
すなわち、夜になって寝付くころに脚がムズムズしてくるため起き上がって歩き回ります。落ち着いたのでまた横になるとムズムズが始まります。このため一晩中眠れないこともあります。そのうえ、脚がひとりでにピクンピクンと動いてしまう周期性四肢運動障害という症状を伴うことが多いため、よけい眠れません。
このような病気を持つ人は日本では100人に2~4人ぐらいいて、女性の方にやや多くみられます。また、歳をとるにつれて増えてきます。病気の背景に鉄の欠乏、慢性腎不全、妊娠などがあることがあります。
この病気の研究も進んできて良い治療法もできています。心当たりのある方は一度睡眠の専門医のいる施設で診断してもらってください。
公益財団法人 神経研究所
精神神経科学センター長 髙橋 清久
コロナウイルスは世界的に、流行期から蔓延期に入りました。日本でもwithコロナが日常化し、新しい生活様式は年単位で継続する可能性があります。感染予防の免疫力、ストレスによるメンタルリスク、メタボリスクの3つのリスク予防は、全て日常生活と密接な関連があります。そこで今回はアフターコロナで健康を維持するための、適切な睡眠習慣についてまとめましたので参考にしてください。
睡眠習慣は睡眠と生活リズムからできています。この2つの改善には、食事・運動・特に睡眠のバランスが大切です。この3つの観点から生活を見直しましょう。
食事:在宅勤務やロックダウンで外出が減ると活動量が減ります。また自宅で間食が増えメタボリスクが高まります。おやつのような糖質に注意が必要です。おやつに加えて飲酒増加も要注意であり、世界保健機関(WHO)も、ストレスや孤立によるアルコール摂取のリスクを注意喚起し「有害な飲酒が感染リスクを高め、治療効果も低下させうる」としています。免疫力を高める食事としては、腸の調子を整える発酵食品(ヨーグルト、味噌、納豆など)や食物繊維(野菜)、細胞を作るたんぱく質(肉、魚、大豆)をバランスよく摂取することが大切です。食べすぎやアルコールは睡眠を妨げるので、適切な食事、適正飲酒は良く寝るためにも大切です。
運動:自宅にこもりがちで、活動量の低下リスクが高まっていますが、屋外を歩く・屋内で筋トレするなどの、活動量や筋肉量を維持する活動は、免疫力やメタボ予防からも大切です。他に、ストレス発散にも運動の有効性は証明されています。屋外での運動は、人込みを避けて歩くことを勧めます。屋内でも窓際から日光を浴びて活動すると、生活リズムの維持に役立ちます。屋内で可能な運動としてはYouTubeや動画が無料で配信されており、それらを活用すると良いと思います。個人的なお気に入りはNHKの筋肉体操(https://www.nhk.jp/p/ts/K1L8KXP824/)です。お気に入りの芸能人を真似して運動すると、運動継続できるモチベーションになります。時間も1コマ5-10分と無理なくできると思います。他にも様々な動画がありますので、自分なりの筋トレを見つけてください。体を動かすと夜の睡眠も改善しますので、生活リズムの建て直しに運動は重要です。
睡眠:活動量の低下や自粛ストレス、孤独により、入眠困難や中途覚醒など睡眠の質が低下する人が増えているようです。なんとなく夜更かし・寝坊・昼寝により、生活リズムも崩れやすいと思います。睡眠・生活リズムの改善には①日光を浴びる②体を動かす③起きる時間を決める、この3つの習慣が大切です。生活リズムを維持する事で、いつもの睡眠パターンを取り戻しましょう。そのためには起床時刻や日光を浴びる時間を毎日同じにすると良いです。コツとしては、寝る時間は多少ばらついても起きる時間を揃えると良いです。寝室のカーテンに隙間を開けて、朝日が入るようにすると目覚めも良くなります。他にも感染予防には睡眠時間と睡眠の質が影響することが分かっています。6時間未満の睡眠や、睡眠の質の低下は免疫力を低下させます。また深い睡眠中に成長ホルモンが出ており、それにより免疫力UPの効果もあるそうですのでwithコロナでの要点です。
まとめ:引きこもっていても日常生活のバランスを維持する事はとても大切です。もしも生活リズムを見直しても眠れない時は、ストレスによる不眠症を疑います。その場合は睡眠外来など医療受診をお勧めします。現状ですと働き方は個人で違いますが、生活習慣が大切なのは、皆さんにとっても、家族や身の回りの人にとっても同じだと思います。
さらに興味を持った人は睡眠12か条(http://www.jfnm.or.jp/nemurin/g-sle.html)の情報を提供していますので、続きはWebでお願いします。
公益財団法人 神経研究所
睡眠健康推進機構 特別推進員 相良 雄一郎
以前、当財団にて、子どもたちに向けて、“睡眠”、“ねむり”というテーマで全国の小中学生に絵や作文、ポスターなどを募集したところ、多くの作品が寄せられました。
さまざまな作品から、「睡眠は楽しい」、「ねむりが大好き」という感覚が伝わってきました。
(http://www.jfnm.or.jp/nemurin/conku-ru.html)
私は子どもたちの作品を拝見して、子どもがどのような環境で育つのか、心身の発達過程でどのように豊かな感情が芽生えるのか、とても興味をひかれました。
そこで、私の経験したことを中心に、歌に寄せて考えてみました。
「幼児(おさなご)の指さす先に灯あり、“ランパ、ランパ”と吾を導く」
この歌は私がスウェーデン、イエテボリに留学中の冬に出会った情景です。
子どもは生まれながらにして他者とのコミュニケーションを求め、その手段として言葉を覚えようとするようです。母親が一番身近な存在であり、「ママ」はどの国でも初めの一言ですが、北欧では冬の夜が長いことから、「ママ」の次には「灯」に大きな関心が向くようです。現代の社会でふと考えることがあります。子どもの心身の成長には、月ごと、年ごとに、外からの刺激による効果が最もよく現れる臨界期があるようです。
現在の社会では、子どもがバギーに乗せられしきりにスマホをいじっている。
新型コロナウイルス感染症の渦中では、抱っこされても、母親はマスクをつけている。
こんな環境下で、子どもは母親の表情をうまく読めるのだろうか?
離乳食を口元に近づけても口を開けてくれない乳児、
「わがマスクとりて大きな口開けば、子は笑みてスプーンに口寄す」
子どもはまねて、口を開け、食べ、噛むこと、おいしいという感覚を覚えるようです。
子どもの元気な叫び声や笑い声を聞くと、安堵します。
「三月前バーバひとことのみの幼児が“おばちゃんありがと”今朝の出会いに」
「対峙せる虎に虎語を話しつつ微笑みかける娘一歳(小田龍聖 明石市)」
新型コロナウイルス感染症の渦中では、育つ子どもにどのような変化があるのか大きな関心事です。また新たな形としてのコミュニケーションや成長が生まれる時期が来るのか、不安と期待が入り混じります。
子どもはヒトばかりでなくすべての生き物と友達になろうとする、素敵な世界に育ちます。このような子どもを差別や争いのない社会を背負う未来として育てることは現代の大人の役割です。
睡眠健康推進機構長 大川 匡子
今、世界中の人々の生活を変えてしまった新型コロナウィルス感染症ですが、この流行と関連して、奇妙な夢を見ることが増えたという事が2020年4月初めに話題となりました。CNNやNew York Times, National Geographicなどは、この奇妙な夢をCorona Pandemic Dreamsと呼びました(Rener, 2020)。そのきっかけの一つとしては、作家のLance Weller氏が以下のような「奇妙な夢」をTwitterに投稿したことが挙げられます。「黒塗りのアメリカ合衆国大統領専用車が歩道に寄って止まると、黒い窓ガラスが開き、中からロナルド・レーガンが手招きをし、漫画専門店に案内されると、欲しかったタイトルがすべてそろっていたが、私が買い物を済ませる前に、レーガンは私の財布をひったくり、ドアから外へ飛び出して行った。」このような投稿をきっかけとして、自分自身も奇妙な夢を見たとしてたくさんの投稿がTwitter上にあげられました。たしかにこの夢は奇妙な夢であるとは思います。しかし、夢とはもともと「奇妙な内容であること」がそれ自体の特徴なのです。マスメディアは、世界中の人々を新型コロナウィルス感染症が不安にさせた結果、このような夢が起きたものとしたかったようですが、その解釈はご都合主義的であると言わざるを得ません。皆が「奇妙な」夢を見るようになった事が事実だとしても、それは、夢が「奇妙になった」のではなく、単に夢を「よく見るようになった」だけである可能性が高いと思われます。レム睡眠に合わせて人を起こすと、普段、夢など見ていない人でも、8割程度の確率で夢を思い出します。レム睡眠は一晩に3回から5回程度出現するので、どんな人でも一晩に3回から5回くらいの夢を「見て」いるのです。普段、夢を「見ない」のは、単に覚えていないからに他なりません。タイミングよくレム睡眠中やレム睡眠直後に目が覚めればしばらくは夢を覚えているのです。コロナ自粛(海外では都市封鎖)中に、外出せず、自宅にいることが多くなった結果、睡眠覚醒のリズムが乱れ、その結果、夜に目が覚める回数が普段よりも多くなり、夢を「覚えている」頻度が高くなったというだけかもしれません。
Wegnerという心理学者は、実験の参加者に「シロクマの事を考えないようにしてください」という指示をしました。ところが、皮肉なことに参加者たちは逆にシロクマの事が頭から離れなくなってしまったのです(Wegner et al., 1987)。私たちは、一つのことが気になりだすと、それ以外のことに注意を向けることがなかなかできなくなってしまう傾向があります。新型コロナウィルス感染症のことが気になり、頭の中はそれに関することがぐるぐるといつも回っていて、悪夢がコロナの不安と関係があって、なにかさらに悪いことが起こるのではないかと気になる人は、また、悪夢を見ないかと考えてばかりいるようになるかもしれません。前述したように、(悪い夢も含めて)夢は一晩に何回も見ているので、夢を覚えていてもなんら不思議ではありません。また、夢を気にしていると夢を覚えている傾向が強くなることもあるようです。
奇妙な夢や悪夢が気になって仕方がない人は、それが原因となってさらに変な夢をたくさん見るようになる可能性があります。「夢の事を考えるな」と言ってもかえって夢の事が頭から離れなくなってしまうかもしれませんが、できれば、夢の内容を過度に気にしないようにしていただけると自然と夢など見ずにぐっすりと眠れるようになるのではないかと思います。
最後に、規則正しい生活をすることで、「夢を覚えていない良い眠り」が皆さんに訪れることをお祈りしたいと思います。おやすみなさい。
江戸川大学睡眠研究所 福田 一彦
「夢ってなぜ見るのでしょうか?」睡眠研究者が良く尋ねられる質問です。ある研究者は夢を見る睡眠状態であるレム睡眠が赤ちゃんで多いことや、情動的な内容の夢が多いことから、環境に対する適応のための準備を夢の中でしているのだ、というような説明をします。しかし、本当にそうなのかどうなのかは「神のみぞ知る」です。この質問の「なぜ」が英語のWhyという意味で、夢を見る「意図」を問うているのならば、おそらく科学には答えられない問いでしょう。何かの機能が何かの「ため」にあるという考えは、その機能が誰かの意図によって生物に与えられたということが前提になっています。発汗機能は体温調節のためという分かりやすい説明がありますが、イヌは発汗できませんが体温調節を行っています。生物の持っている機能は進化の過程で、その生物の生存に有利であったか、害にはならなかったという事で淘汰されなかった結果残っているだけのことです。科学は神の存在を前提としたWhyには答えられません。科学の使命はHowに答えることです。
夢をどのように(How)見るかという事については、かなり良く分っています。1953年にChicago大学のAserinskyとKleitmanは眠っている人間が覚醒中のような早い目の動き(Rapid Eye Movements)を示すことを見出しました。しかも、そのタイミングで覚醒させてみると、夢を見ていることも分かりました。この特異な睡眠状態は、早い目の動きを示すことから、その英語の頭文字をとってレム(REM)睡眠と名づけられました。1900年にFreudが夢の解釈についての精神分析学的見解を書に著してから半世紀を経て、夢という現象を科学的に研究できる糸口が開かれたのです。
そして、その後、夢を見ることはレム睡眠という生理学的な状態と同義であると考えられるようになりました。しかし、最近では、この常識的な見解である「夢=レム睡眠」という図式にも異議が示されるようになってきました。その根拠は浅いノンレム(Non REM)睡眠(ノンレム睡眠という睡眠は「レム睡眠ではない睡眠」という意味で、実際は等質な一つの睡眠状態ではなく、浅いノンレム睡眠から深いノンレム睡眠まで3もしくは4種類の状態に分かれています)でも夢と同様な主観的体験が報告されることがあることなどが根拠となっています(Solms, 2000)。この件については、専門家の間でも見解が分かれていますが、レム睡眠中に体験されるものとノンレム睡眠中に体験されるものとでは、情動的な要素の強弱など、その性質には違いがあり、両者に共通したプロセスがある可能性(Sicrali et al., 2017)はありますが、まったく同じプロセスであると考えるのにはやはり無理があると言えると思います。情動的な要素が顕著で、奇妙な、ストーリー性のある、言わば夢らしい夢はレム睡眠を中心として見ていると考えて良いでしょう(Takeuchi et al., 2001)。
レム睡眠では、脳の奥の方にあるレム睡眠の中枢が脳全体をランダムに刺激し脳の中にある記憶痕跡を活性化させることで、夢を作る材料が集まります。さらに、レム睡眠の中枢の近くには、眼球を動かす神経があるので目がキョロキョロと動きます。また、体に対しては、筋肉の緊張を抑制する指令が発せられるため、夢の中で飛んだり跳ねたり走ったりしても、手足は動かず、静かに眠っている姿勢が維持されます。つまり、私たちの夢での体験というのは、過去の記憶を適当に組み合わせて作られているのです。夢の中で、これまで会ったこともない人が出てきた、夢の中の体験は、過去に体験したことのないものだった、などの事から、過去の記憶からできているとは信じられないという方もいらっしゃいますが、夢は過去の記憶を正確に再現しているわけではなく、過去の記憶(ドラマで見たことなど本人の体験したものだけではなく)がランダムに適当に組み合わされるため、5年前の体験と昨日見たドラマの内容が組み合わさった奇想天外な内容となったりするわけですので、言わば経験のない新鮮な体験となることもあるわけです。
悪い夢を見て喜ぶ人はいないと思います。しかし、それを何か悪いことが起こる前兆であるかのように悩む人もいるようです。これは、Freudが提唱した夢の解釈によって深層心理に潜む問題が解き明かせるという主張の影響もあるでしょう。しかし、Freudが提唱した精神分析学自体、彼の数少ない患者に関する臨床的経験からインスパイアされたもので、科学的検証に耐えられる根拠を持っているわけではありません。悪い夢を見て気分が悪くなるのは仕方がないとしても、ランダムに刺激された過去経験から自動生成された夢体験に必要以上の意味を持たせるのはあまり賢明な態度とは言えないと思います。
もちろん、夢は覚醒中の状態と無関係ではないので、覚醒中に良くない体験があればそれに影響された夢を見ることもあるでしょう。実際、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者さんはその障害の原因となった強烈なストレス体験を悪夢として追体験します。
しかし、もっと一般的な普通の人たちが見る悪夢は、実はそれほど珍しいものではありません。皆さんは、夢の中で誰かに追いかけられて怖い思いをした経験は有りませんか?実は、夢の中で追い回されて怖い思いをするという体験は夢のストーリーとして非常にありふれた物で、カナダの夢研究者のNielsenによれば、最も多いとされています(Nielsen et al., 2003)。では、覚醒中に実際の体験として追い回されて怖い思いをしたという経験はどのくらいの人にあるでしょうか。実際に聞いてみても覚醒中の体験がある人は非常に稀です。Nielsenは別の研究で覚醒中と夢の中で体験した情動体験について実際にデータをとって比較していますが、両者の間で唯一顕著な差が認められたのは「恐怖」で、夢の中で多かったという結果です(Nielsen et al., 1991)。もちろん、楽しい夢もありますが、このように夢とは一般的に怖いものが多いのです。夢が怖いことの生理学的な背景としては、レム睡眠中に脳の中にあるネガティブな情動と関連した部位である扁桃体が強く興奮しているという事実があります(Maquet et al., 1996)。つまり、日中の出来事とは無関係に夢は自動的に怖い体験となるという事であって、過去の悪い体験と結びつけて考えるのは考えすぎでしょうし、先の事と結びつける事も科学的な見地から見れば無意味な事だと言わなければなりません。
江戸川大学睡眠研究所 福田 一彦
世界睡眠の日(World Sleep Day)は世界睡眠医学協会(World Association of Sleep Medicine)が2008年に初めて制定したものです。この学会は世界睡眠連盟(World Sleep Federation)と合併して、現在は世界睡眠学会(World Sleep Society)となりましたが、睡眠の日の活動をそれまで以上に活発に推し進めています。
睡眠の日の目標は健康的な睡眠から得られる利益をひろく人々に知ってもらうことです。そのために学会ではメディア対応の学会員を世界中に配置し、普及啓発のためのツールキットなどを作成しています。これを受けて多くの国では様々な工夫を凝らして、人々の睡眠への関心を高め、優れた活動をしたグループを学会の総会で表彰しています。また、別表のように学会では毎年スローガンを定めていますが、2020年は“Better Sleep, Better Life, Better Planet”(よい睡眠、よい人生、よい地球環境)です。環境問題まで視野に入っています。ちなみに最初の年は“Sleep Well, Live Fully Awake”(よく眠り、しっかり目覚めて生きよう)でしたが、2009年は交通事故を意識してDrive Alert, Arrive Safe”(眠い運転は事故のもと)、2011年は “Sleep Well, Grow Healthy”(よく眠り健康な成長を)と子供の眠りに焦点を当て、2012年は“Breathe Easily, Sleep Well”(楽に呼吸すれば、よく眠れる)、2013年は“Good Sleep, Healthy Aging”(よい眠りで、いつまでも元気)と睡眠時無呼吸や高齢者の睡眠を取り上げています。
日本では公益財団法人 精神・神経科学振興財団の睡眠健康推進機構が2011年に睡眠の日を制定しました。候補日を20ほど挙げて日本睡眠学会会員の投票により決定することとしましたが、世界睡眠の日と9月3日がほぼ同数の最高点を獲得しました。9月3日はぐっすりの語呂合わせです。年に春秋2回あるというのもよいということで、日本では睡眠の日が年2回になったのです。
2014年に厚生労働省は健康づくりのための睡眠指針を発表しましたが、この指針の解説では睡眠習慣を振り返ることの重要性がうたわれています。睡眠の日に国民の皆様がご自分の睡眠習慣を見直し、望ましい睡眠がとれるようになることを願っています。
睡眠の日も少しずつ浸透し、新聞、ラジオ、テレビにも取り上げられることもあり、寝具、飲料、薬剤、電話、玩具関連の企業も睡眠の日に様々なイベントを行っています。それでもまだまだ浸透率は低いので、今後努力して多くの人々に知っていただき、それが睡眠習慣の改善、ひいては豊かな人生、健康長寿へとつながっていくことを目指したいと考えています。
Year | Date | Slogan |
---|---|---|
2008 | 14 March | 'Sleep well, live fully awake' よく眠り、しっかり目覚めて生きよう |
2009 | 20 March | 'Drive alert, arrive safe' 眠い運転は事故のもと |
2010 | 19 March | 'Sleep Well, Stay Healthy' よく眠ることは、健康のもと |
2011 | 18 March | 'Sleep Well, Grow Healthy' よく眠り健康な成長を |
2012 | 16 March | 'Breathe Easily, Sleep Well' 楽に呼吸すれば、よく眠れる |
2013 | 15 March | 'Good Sleep, Healthy Aging' よい眠りで、いつまでも元気 |
2014 | 14 March | 'Restful Sleep, Easy Breathing, Healthy Body' ゆっくりと眠り、ゆっくりと呼吸をし、健康な体づくりを |
2015 | 13 March | 'When sleep is sound, health and happiness abound' ぐっすり眠れたとき、健康と幸福に満ち溢れる |
2016 | 18 March | 'Good Sleep is a Reachable Dream' よい眠りは叶えられる夢 |
2017 | 17 March | 'Sleep Soundly, Nurture Life' ぐっすり眠ることは人生を育む |
2018 | 16 March | 'Join the Sleep World, Preserve Your Rhythms to Enjoy Life' 眠りの世界にようこそ、楽しい人生へのリズムを刻みましょう |
2019 | 15 March | 'Healthy Sleep, Healthy Aging' よく眠り健康長寿を |
2020 | 13 March | 'Better Sleep, Better Life, Better Planet' よい睡眠、よい人生、よい地球環境 |
◇よい眠りに大切な必須アミノ酸 トリプトファン:
大豆、魚、肉、乳製品、卵などに含まれるトリプトファンは脳内に運ばれるとセロトニンを作る原料になります。朝食にトリプトファンを摂ることでセロトニンが増え日中の活動が快適になります。
◇よい眠りに大切な神経伝達物質 セロトニン:
セロトニンが活発に働くことで脳全体が活性化され、心が安らぎ、元気に活動できるのです。うつ病の人にセロトニンが少ないことも知られています。
日が沈むとセロトニンに別の酵素が働いてすいみんホルモン「メラトニン」が作られ、夜がふけていくとメラトニンの働きでぐっすりと眠りにつくことができます。このプロセスには、太陽の光が大きく影響しています。
◇『睡眠ホルモン』 メラトニン:
人間が眠気を感じたり、起きたりする時はこのホルモンが作用します。メラトニンは、昼間はほとんど分泌されず、夕方から夜間にかけて多く分泌されるようになっています。メラトニンの分泌は年齢とともに減少するため、メラトニン不足が高齢者の睡眠障害の原因の一つと言われています。このように、すいみんホルモン「メラトニン」を増やすには、朝の光と朝食が重要なことがわかります。
快適な眠りのカギは朝の陽ざしとバランスのとれた朝食から。
皆様は新しい年明けにどのような夢をみたり、ねがい事をしたでしょうか。 初夢は昔から「一富士、二鷹、三茄子」など縁起のよい夢とされていますが、このような夢をみた方はいますか? もしかして昨年富士山が世界遺産に登録されたこともあり、富士山と関連したいろいろな夢が出てきたかもしれません。 私は2日に夢をみました。ふらふらと空を舞っている夢です。楽しいのか不安定なのか、あまり感情がないようでしたが、やりかけの仕事を放って何かもやもやがあったのかもしれません。
「夢」とは眠った時にみるもので、その中に「希望」という意味が込められているのは全世界共通のようです。夢は本来楽しくて好きな現象ですね。ところが、震災の後や戦時下などおちおちと眠れない状況では、眠れない、眠っても悪夢ばかりということが起こります。このような悪夢は眠ることへの恐怖をかきたて悪循環となります。日本には奈良時代に悪夢を良い夢に変えるという夢違え観音がつくられ、今も多くの人が参拝しています。実際にご利益を賜った人も多いようです。
さて現代のサイエンス社会は、脳科学でもすばらしい進歩をとげています。 私は子どもの頃から眠る前に自分のみたい夢を頭のなかに描きながら眠りについたことがしばしばありました。しかしそれは実現できませんでした。また自分のみた夢をテレビの画面に写し出すことが出来る時代が来るのではないかと思っていました。 近未来にはロボットがヒトのこころを読むことが可能になる?ともいわれています。悪夢で苦しむ方々の夢を良い夢に変え、心地よい睡眠をとることができるようになるかもしれません。 さて、もっと大切なことは、誰でも安心して眠れる平和な社会を実現することかもしれません。電車のなかでも安心して眠れる平和な社会、睡眠不足のない社会などをテーマにして、日本発の「睡眠健康立国」として宣言することが私の夢です。
寝つきが良く、途中で目覚めることもなく毎日10時間以上も眠ってしまう人がいます。そのために起きなければならない時間に起きれずに、学校や職場に遅刻するなどの問題が出てきます。そういう方が時々私の外来にもこられますが、ほぼお手上げです。そんな中ですっかり治ってしまった2人の方をご紹介しましょう。
小さい時から「眠り姫」と言われたほど良く寝る子だったそうです。小学校に入ってからも朝起きが苦手で、起こすのに母親が1時間以上もかけてやっと起きていました。遅刻もたびたび、でも欠席はなしです。母親は起こすのにくたびれてしまい外来を受診されました。
できるだけ早く床に入り、朝目覚めたらすぐに眠気のかるくなる薬をのんでいただくなどいろいろ工夫しましたが、あまり変わりませんでした。それが6年生になって集団登校のリーダーになってからは母親が2~3回声をかけるだけで起きれるようになりました。学校の先生からも褒められるようにもなりました。みんなの先頭になって登校するのが楽しそうです。
子供の時から睡眠時間が長く朝の起床は苦手だったそうです。ある時、3ヶ月ほど残業が続き、睡眠時間も5時間足らずになり、ついにダウンしてしまい休職する羽目になりました。その途端から昼頃まで起きることが出来ず、なかなか復職のめどが立たないでいました。ところが休職3ヶ月を過ぎたころに、住んでいるマンションの理事長の順番がやってきました。元来真面目な方でしたからその仕事には力を入れ、住民から信頼を寄せられるようになりました。そのころから少しづつ起きる時間が早まって、さらに3ヶ月後には見事復職を果たしました。
このお二人の長時間睡眠者と呼んでもよい方々が、なぜ早く起きられるようになったのか確実な事は言えませんが、共通していることは新しい役割を与えられたこと、周囲の信頼、称賛を得たこと、そして責任を自覚したことです。このようなポジテイブなストレスが覚醒時刻を早めているのかもしれません。